温玉うどんに天ぷらを追加する贅沢

コミュニケーションが苦手なのに、人の感情の機微はよく感じ取れる方だ。いま彼は不快に感じた、いま彼女はそれに気づいていない、その類のことは手に取るようにわかる。


今日は就職先の内定者懇親会で、はじめて同期・予定と会った。彼らはそれぞれ別のバックグラウンドを持ち、別のものを弊社・予定に求めている。わたしの隣に座った彼女は、某私大の付属校出身で明るく自己肯定感が強く、なおかつ群れることが嫌いなタイプで、だけどコミュニケーションは好きだと言っていた。彼女は「だって○○は××に決まってる!」という言い回しをする人で、なおかつ(自己肯定感が強いので)自分が内定したこの弊社・予定に対する誇りや信頼があるようだった。帰路では彼女とわたしともうひとり、男の子がいた。今日参加していたなかではもっとも学歴が低いとされている大学出身の彼は、他の(弊社・予定よりも就職偏差値の高いとされている)会社と比較検討しているようで、彼女のその決めつけや弊社・予定への信頼が言葉尻にあらわれるたび、小さく苦笑した。


そのどちらもに気づいていて、どちらかというと彼に共感したわたしは、彼女に同意する言葉を発していた。彼の顔がくもっていくのを知りながら、それをどうにか止めたいと重ねる言葉のすべてが、それに拍車をかけた。


改札口の前まで来て、彼は「Suicaチャージしなきゃなんで!」とわたしたちに手を振った。わたしはこの駅のはなまるうどんで夕飯を食べるつもりだったのに、「そっか、また!」と彼女とともに改札を通り抜けて、弊社・予定の同期・予定を褒めたたえた。「わたし、3番線だから」と彼女に手を振って、逆の改札口から駅を出た。遠回りをしてはなまるうどんに向かった。


彼はみんしゅうに「内定者イベントレベル低すぎたわw」と今ごろ書き込んでいるかもしれない。彼女の発言に彼がはじめに苦笑したときにあった選択肢の中から、わたしはそうと気づきながら最悪の選択肢を選び続けた。彼ももしかしたら彼女と同じ1番線の電車に乗るはずだったのかもしれない。もしくはわたしと同じ2番線。どちらにせよ、彼が最後に改札口で「Suicaチャージしなきゃなんで!」と言ったということが、ゲームオーバーの合図だった。


わたしはそのどれもを知りながら、いつだって何もできない。わたしはいつも自分が思うのと反対の選択肢を選んでいて、ときどきそれに心が折れそうになる。

一生このまま生きていくということが受け入れられそうになくて、温玉うどんに天ぷらを追加した。


2019.3.27